帰農令・いまさら

 「100年に一度の」(?)の経済危機による失業者の増大を受け、その受け皿として、第一次産業が注目を集めている。いわく、自然とともに歩めるいい仕事だと。
米や野菜を育て、鶏でも飼って、たまには魚釣りでも…と、これぞ理想の生活とばかりに、急にアピールされ始めている。
 ちょっと待ってくれ。国内総生産に占める農業の割合は全体のわずか1%あまり、就業人口こそ300万人ほどいるが、大半は年寄りの兼業であり、主たる収入を他に求めざるを得ないというのが実情である。今日、農業で生活している人は、ほとんどいないのだ。
これが戦後日本の姿である。自然とともにある産業を、軽視し崩壊させておいて、何を今さらだと、私は思う。毒ギョーザが出たら、安全を考えれば国産品を食べたいだとか、急に外国産が高くなったら日本の農業を守れだとか、挙句の果てには、失業者救済のために雇用の受け皿になれだとか…。
 今まで散々蔑んでおきながら、都市住民が困ったなら助けてくださいというのは、いくらなんでも虫がよすぎるというものであろう。
 まあ、とはいうものの、仕事をなくし行き詰まってしまったのなら、農村生活というのも悪くはないかもしれない。ただしよほど儲かっている農業法人に就職する以外、公的助成でもない限り、現金収入は「お小遣い程度」にしかならないだろう。
住居があり仕事があるというのは、人間生活の前提である。それに、かなりの農作物も自作できる。「お小遣い程度」という条件が、あらかじめ分かっているなら農業への転職というのも、十分あり得る話だ。
・・・現にわたくし貧乏卿とて、都会のサービス業(学習塾)で毎日働きながら、正直なところ収入は、お小遣い×アルファー程度(ただし2ないし3)という惨状なのである。できることなら、私だって新規参入したいものだ。朝・昼は田畑に出て、夜は近所の子どもに勉強を教えますよ。これでお小遣いダブルインカムだ!?・・・
 ひょっとすると、こうした「お小遣い組」が日本の農村、ひいては第一次産業になんらかの刺激を与えるかもしれない。
 となると、この21世紀版・帰農令も、それなりに可能性のあることではないのかな。