引退しろとは言わないけれど、もっと謙虚に政権を下支えして欲しいものです。

 あなたは、旧政権党下で常に権力の中心にいた。そして、その権力を継承しうる立場にいながら、あえてそれをしなかった。日本に政権交代可能な二大政党制を築こうと、そこを飛び出した。以来10数年、その実現に奔走した。
そのためには、当初「グランドキャニオンに柵はない」とする自由主義路線を主張しながら、旧政権の自由化路線が行き詰まるにつれ、今日の子ども手当の創設にかかわるなど、大きな政治思想の転換も辞さなかった。それも、国民のための政治を実現するというあなたの信念のあらわれであった。あなたは、当時烏合の衆でしかなかった野党第一党を闘う集団につくりかえた。そして、あなたの念願はついに昨年実現された。その戦術の見事さに、我々は脱帽する。
 しかし、残念なことに、あなたは旧政権党の政治手法が体の隅々まで染み込んだ方でもある。権力にまつわる考え方とやり方は、あの政党の汚いそれそのものだ。我々は、新政権の船出を喜ぶと同時に、それが最も古いタイプの政治家によってなし遂げられたという歴史上の皮肉をも目撃した。そして数か月を経ずしてその船は、最も古いタイプの問題によって傷つけられている。
あなたは、新政権の生みの親であった。それは誰もが認めることだ。だが、生みの親が育ての親である必要はない。そろそろ次世代の指導者たちに譲り渡してもいいのではないか? あなたが去った政権与党がたいへん心もとないことは確かだが、逆境と責任が人を育てるということもある。何よりも現在の我々は国難ともいえる危機に直面している。この国の危機は複雑で多岐にわたっている。危機を脱するには、多くの仲間が協力し、なんとか皆で知恵を出し合うことが必要だ。あなたの存在感は、それが大きすぎるゆえに、かえってそれを阻害してしまう。
繰り返し言おう、あなたは政権交代と新政権を生み出したのだ。あなたはその生みの親として、また広い意味で日本を救った一人として、人々の記憶にも、また歴史上の記録にも残されるであろう。これからはあなたが育てた弟妹たちの活躍をなるべく静かに見守る。それで十分ではないか?