デカに気をつけて・・・

 「知らない猫が餌を食べてる!!」と家人はカンカンである。家の中では飼えない完全外猫のシロ・グレ・ミケのために庭に餌を置いている。そして、時に「知らない猫」が食べに来るのである。
 うちのシロ・グレ・ミケは外敵に対して全く知らん顔である。身構えたりもしない。これではいけない。猫にはナショナリズムはないだろうから、パトリオティズムを説かなければならないと思う。曰く「お前たち、諸君の郷土が侵されているのだよ、もう少し毅然とした態度をとれないのかね」と、両前足をつかんでシロを叱る。シロは説教されているとはわかるらしく、頭をあちこちに振って視線をこちらに合わせない。でも、やっぱり柄じゃないな、偏狭な郷土主義など…。
 では、逆に誉めなくてはならない。「君たちは、食足りて礼節と人道ならぬ猫道を知ったのだね。より可哀そうな同胞を、あえて見て見ぬふりすることで助けてあげているのだね。よくぞ情け深い猫になってくれた」と。称賛の声にも興味はないとみえて、やはり視線は合わせない。どうやら猫には右も左もないようである。
 最近そのたびたび来る「知らない猫」にも名前がついた。「知らない猫」では一々説明するのに骨が折れるからである。白と茶のブチで大猫なので「デカ」。性別・年齢・所属は不明。すると今度は「デカが来た」とか「デカに気をつけて」などと言う言葉が家人の間で交わされることになった。こちらが追い払う立場なのに、なんだか逆にお尋ねものの一家にでもなったようで決まりが悪い。
ひとりで本を読んでいると、またあのデカが来た。でかいだけに豪快な食べっぷりである。よく見るとお前もかわいい顔をしているね。誰に飼われているか知らないが、お前さんも不幸な身の上なのかい? ならあと三口だけお食べなさい。そうしたら出て行ってもらうよ、なにせ家人がうるさいからねと心の中でカウントダウンする。
結局十口は食べたかなぁ…。シッと軽く追い払うと、わりと遅足でのっそりと逃げ出した。その際こちらにぺこりと頭を下げたような気がする。そのうち「ワガハイも保護してくださいまし」とでも言ってきたらどうしょう??