2016年4月

4/30・土
 機械化などに因り相当数の仕事が無くなって仕舞うことは、どうにも確からしい。例えば「みどりの窓口」。今や主要駅に数えるほどしかない。その代わり大抵の切符は例の高性能な券売機で買える。二昔前までは、態度の悪いおじさんに「今頃こんな列車を買いに来ても指定券なんかある訳ないよ」などと悪態を付かれることも多多あったが、現代の新型機械ではシートマップも出て来て、手に取るように座席の指定も出来る。使い方さえ覚えて仕舞えば、便利と言えば便利である。
 ある職業が無くなっても、別に新しい仕事が出来るから大丈夫だという楽観的な見方もある。新見南吉に「おじいさんのランプ」という話しがある。村にまで電線が来て、とうとうすることがなくなったランプ屋の巳之助さんは、「わしの、しょうばいのやめ方はこれだ」と煌煌と照らしたランプに石をぶつけて廃業を決意する。悲壮悲劇である。
併し此の短編のタイトルは少少紛らわしい。物語では巳之助さんは素早く成長産業を見つけ、ランプ屋の後は何と本屋を始める。夜も明るくなるから本も売れただろう。実に先見の明がある。そして書籍販売業で成功した巳之助おじいさんは、ランプ屋だった遠い昔を思い出すのである。曰く「自分のふるいしょうばいがお役に立たなくなったなら、すっぱりそいつをすてるのだ」と。物語としてはハッピーエンド。そりゃあ、若ければ転業も出来ただろう。だが此れがもしも「ランプ屋のおじいさん」だったならば、此処まで巧く往ったかどうかは分からない。ランプとともに心中したかも。
 日本人の平均年齢は四十代半ばを過ぎているという。果たして、若き日の巳之助さんのように上手に商売替えが出来るか。さて冒頭の「みどりの窓口」であるが、見たところ最近の利用客の多くが高齢者と外国人である。働き手が高齢化する以上に御客も高齢化すれば、機械化や自動化には限りがあるということになるが。ところであのおじさんたちは皆無事に定年退職したのかな。
 大型連休二日目。一日晴れ。午前中は宿酔気味。夕方はMX系の「週刊リテラシー」を見る。反権力と言う点では今や地上波最硬派の番組である。


4/29・金
 高森線の被害は相当なものだとのこと。そういえば、高森線は未成線である。其のまま伸びて行って、九州を横断する予定であった。併し例によって計画は中止。而も伸びて行って結ばれる筈だった高千穂線は台風被害が元で廃線に。どちらが織姫で彦星かは分からないが、何というか悲劇の盲腸線である。
 豪華海外出張に週末の別荘通いと都知事の評判が良くない。其れにあれやこれやと批判されても、成果は上げていると開き直る態度がつくづく宜しくない。どうも国際政治学などをやっていたから、地方行政など馬鹿馬鹿しくてやってられないのだろう。それに国政復帰へのひとつのステップぐらいにしか考えていないから、地べたを這いつくばるような謙虚さが足りなくなるのだと思った。
 大型連休一日目。朝から晴れた。北風強し。午後両国に向かう。博物館でも見て御酒を飲もうという計画だったが、時間通りに来たのは鷺乃間君だけ。結局二人で常設展を見る。見終わった頃に月波君とSさんが登場。早速、地ビールレストランのような所に入る。併し鷺乃間君は仕事が忙しいと見えて、また一段と痩せている。不定愁訴が続き人間ドックに入ったとのこと。其れに明日は京都に日帰り出張だという。ちなみに坪上君と轍田さんは体調不良で不参加。最近の若い人は体が弱いと思った。過重労働のせいである。くれぐれももっとサボるようにと指南す。
 例によって店内は超満員。怒鳴るように発言しても真意が伝わらず。こういう混雑だけは耐えられない。それに例によって地ビールは高い。一時間ほどして御客が誰も居ない古い蕎麦屋に移動。二時間弱「大関」を飲み、更に水道橋の立ち飲みBの新店を表敬訪問して帰る。


4/28・木
 夕方まで小雨が残る。こうなると傘を差さなくてはならない。生憎吾人には手は二本しかないので、代りに鞄を置いて千寿に向かう。つまり手ぶら出勤である。そもそも吾人の鞄には何も入っていない。元元本務校は何も持たないで出勤していたが、千寿校は電車に乗って行くので、格好づけの積りで鞄を持って行った。もう一切が面倒臭いから、名より実、というより空を取ることとする。
何でもこういう手ぶらでの出勤をイギリス方式と言うらしい。かの地では、事務系の勤め人は大抵手ぶらなのだという。そう思って「刑事フォイル」を見直す。成程、警視正殿は何時も何も持っていない。つくづく日本人も見習うべきであると思った。電車も空くし、忘れ物やひったくりに遭う心配もない。爆弾犯に間違われる恐れもない。
 来るべき生徒も来ないので少し早めに退社。早速「大江戸」に参る。併し大型連休前と言うのに、一人で回転寿司では寂しい限りである。丁度店長が「注文なさったもので来ていない品物はありませんか?」と聞いてきたので、思わず「私の嫁(の候補)が来ていません」と言いそうになった。「小諸そば」で更に260円の盛り蕎麦。胸は空っぽなので、胃にだけはものを詰め込んで帰宅す。
またまた日銀総裁が出て来て、この期に及んでも、尚どうしても物価を上げたいと述べていた。ならば最低賃金を一気に数百円引き上げるべきである。例えば都内なら時給1200円にする。当然原資は御客が支払うべきだから、価格転嫁を義務付ける。場合によってはカルテルなども解禁する。そうすれば2パーセントぐらい簡単に上がる。上がった給料は即消費に回るだろうから正しく好循環である。併し此れは総裁の仕事ではないな。


4/27・水
 日中は曇り。新幹線は予定より早く暫定復旧。午後出社。ぶらぶらとチラシを配って歩く。結局二時間ほど運動した。すると何だか腹が減って仕舞い、不二蕎麦に参る。盛り蕎麦に竹輪天を付けて410円。体を動かすとお腹が減る。結局糖質を取ることになる。運動によって体重を減らすのは、ほぼほぼ不可能だと聞いたことがある。そうなると概ね寝た切り状態で、時たまに霞のような淡い物を食うのが一番いいということになるだろうが、なかなか現実的ではないと思った。退社後は中華立ち飲みと、立ち飲みBへ。
 混雑と人手不足は相変わらず。マネージャーの真紀さんは三週間も連日勤務であるという。余りに気の毒なので、下膳を手伝ってから帰った。夜半から雨。
 

4/26・火
 一日晴れ。家でぼんやりしているとケーブルテレビ会社の営業員がやって来る。曰く、テレビとセットで契約すると、各部屋に月月500円で防犯センサーが付けられると。単身者用の古い物件に大泥棒が入るとも思えないが、色色と説明されている内に何だか心配になり、ついうっかり契約して仕舞った。つくづく心配というものは、一旦し始めたら最後、いくら其の「九割は起こらない」と言われても、切りがないと思った。此れで月月数千円が蒸発することとなる。内需拡大、雇用創出である。序に耐震補強もしなくてはならないかな。一応耐震性が高いとされる軽量鉄骨造りなのだが。
併し民間の警備サービスというものも、昔は大銀行ぐらいにしかなかったが、最近は広く一般住宅にも入り込んでいる。警備業は保険業と並び、心配という抽象的で無限大な物を売り買いの対象にする。実証的には犯罪発生率というものは戦後一貫して落ちていることは落ちているのだが、落ちれば落ちるほど、自分だけはそんな不幸な目に遭いたくないと却ってますます不安になる。だからますます繁盛するのだろうと思った。
 北朝鮮から金正日の専属料理人だったという日本人男性が帰国。件の第一書記とも話をしたという。何でも当人はアメリカとの交渉再開を切望しているとのこと。報道内容を聞く限りでは、概ね常識的な会談だったとは思う。それにしても、もはやこんな不可思議な人物を頼みの綱にするくらいしか交渉チャンネルが開けないから困ったものだと思った。


4/25・月
 一日概ね晴れ。併し比較的涼しい。午後出社。すると目の前を白い自転車が二台のろのろと走っている。無下に追い越すのも何なので、取り敢えず後衛の位置にとる。三百メートルは追走したか。残念ながら右にも左にも折れてくれない。余りに遅いので、「お先にスイマセンと」と追い越した途端に不審尋問に遭う。併し今まで一体何を見ていたのか。地域課員の観察能力の無さに愕然とす。
 退社後は中華立ち飲みに。珍しくどんどん知り合いが来る。飲み屋街も月曜だというのに何だか盛り上がっているよう。もう大型連休が近いのかと思った。よくよく考えると今日は二十五日。なるほど一般的には俸給支給日である。そういう物にまるで縁がないから気が付くのにだいぶ時間が掛かった。十二時過ぎに帰宅。


4/24・日
 未明から朝方にかけては雨。以後曇り。近所の店に行くと、熊本の甘夏も八代のトマトも、人吉の焼酎もふんだんにある。行きは救援物資を届け、帰りはこうした商品を運び出して貰えれば輸送効率がいいと思った。在来線は第三セクターの高森線と豊肥線以外は運転再開。後者は年単位で掛かるだろう。そういえば山田線もまだである。例によって被災地はごみの山。災害とは膨大なストックの消尽である。
 衆議院補欠選挙。北海道は与野党一騎打ちという形になったが惜敗す。野党側の候補が無所属と言うのが良くなかったか。併し野党共闘でも勝てないとなると、つくづくこの国の国民は自民党が好きなのだなと改めて絶望す。


4/23・土 
 新幹線は減便減速の上、博多熊本間が運転再開。来週にも全面開通を目指すという。余震はどうにか収まりつつあるが、また別の断層が動くかもしれないと思うと気が気でない。一日晴れ。草を取ったり、猫を撫でたりして一日無為。


4/22・金
 朝から晴れた。ところで、習慣性の高いラジオ放送ではあるが、平日帯放送の番組の中には、主たる司会者をわざわざ金曜日休みにしているところが幾つかある。謂わば週休三日制である。(無論当人たちは何か別の仕事をしているのだろうが。)吾人は常常、労働時間の革命的削減、休日の大幅増を訴えて来たのだが、カレンダーのあちらこちらを真っ赤にすることに加え、こうしたラジオパーソナリティーに倣い、金曜日の土曜日化、つまり週休二日半化というのも方策としては面白いと思った。会社や学校も金曜は御昼で終業とする。多少の残業はあるとしても、其の後は遊び行くも佳し、何か習い事をするのもよかろう。当然居酒屋は二時開店である。
 そういえば「報道ステーション」の前身の「ニュースステーション」も、当初金曜日は一時間遅く始まり、「金曜チェック」などという下らないコーナーで視聴者を悦しませていた。何せバブル期の事だから、金曜日は遊びましょうということだったのだろう。そんな「金曜ステーション」も何時しか月〜木の通常放送に組み込まれて仕舞う。景気が拡大から縮小に転じ、無茶苦茶な労働強化が始まった事例であると言えよう。そして花の金曜日という言い方も今や全くされない。それどころか月月火水木金金に戻って仕舞った様相である。此の惨状を、土曜日を赤く、そして金曜日を青くすることで一気に打開したい。
 午後出社。今日もチラシを配って歩いた。ちなみに、子どもが居そうか居ないかの判断は、洗濯物の種類か子ども用自転車の有無を手掛かりにする。当然近代的な築浅物件には子どもが多い。併し古い家にも結構いる。こういう家には表札が二つ出ているような所もある。(一つは少し新しい。)つまり此れは実家出戻りのケースであろう。実家に住まう分、余分な住居費は掛からないが、母親一人の稼ぎだけでは生活は中中厳しいだろうな。
 退社後は立ち飲みBに参るも、店内は大混雑。従業員も丸で不慣れな新人ばかりで右往左往するばかり。下膳も配膳も大渋滞でとうとう御皿も足りなくなる惨状である。当然まともな給仕を受けられず。では左様ならと云う事で、焼き鳥Bに転進する。此方も大混雑だったが、店自体が小箱な上、従業員はベテランが多いから、何とか戦線は維持出来ていた感じ。結局両店で少しずつ飲んで御仕舞。何だか金曜だというのに詰まらない限りである。いやしかし、あれだけ大勢の御客に来られたら、吾人なら激昂して「今夜は無理だから」と追い返すな。つくづくみんなよく職務に精励していると思った。共産圏なら「労働英雄」として勲章の一つでも貰えそうである。ただガ氏によると、そういう度を超えた営業努力というものは「自己搾取」というらしい。とかく真面目な日本人が気を付けねばならない陥穽である。


4/21・木
 遥か北の方から七号室に引っ越して来る。住人が早く決まったのは佳いが、また此れで一極集中が酷くなると思った。朝から曇り。湿った南風強し。西から雨。在来線は何とか八代まで全通す。一方避難所の混雑は解消せず。入れない多くの住民が自動車で寝泊まりしているという。寝台車ならともかく、車中泊はきついだろう。つくづくどうにかならないものかと思った。また熊本市の隣の益城町は二度も震度七に見舞われのだというから想像を絶する。耐震対策を施した建物でも駄目な所は駄目だったという。
 其の後千寿に出校。此方も生徒は少ないので、高校生相手に基本的な数列をしっかりと教えた。高校数学Bで習う数列というものは、どういう訳だか中学入試にも出て来る。どんなに優秀な子どもでも飛び級制度というものがないから、入試のたびに無理やりに難問奇問を出して篩に掛けねばならないのだろう。つくづく此の国の入試制度は何だか可笑しいと思った。就中変なのは中学入試の算数である。
 退社後は先週と同じく大橋方面に出て見たが、開いていた筈の立ち飲み屋は案の定、閉まっている。ネットで調べてみると木曜が定休日とのこと。と云う事は先週が臨時営業日だったのか。どうりで今まで気づかない訳である。佳さげな店だけに、木曜休みでは永遠に御縁がないのが残念。例によってありきたりなチェーン店が立ち並び、いつも閑散としている再開発ビルに入る。「王将」に少し寄って帰った。行きしなは岩波の新書『ガルブレイス』を読む。併しガ氏は享年九十七、著者は1927年生まれ。どちらも長命だと思った。


4/20・水
 先月の大名旅行の請求書が送られてくる。クレジットカードで支払った順に、JR東日本(21560円)、JR九州(20570円)、フェリーサンフラワー大分(11460円)、JR西日本(14160円)と、名だたる大企業が並んだ。それにしても大変な金額である。当面緊縮財政である。
 一応、新幹線は新水俣以南が復旧とのこと。併し肝心の真ん中部分が、新・在共に不通の状況に変わりはない。地震の影響が長引けば、二番目の会社の根幹が揺らぐとの見方が早くも出て来ている。そう言えば北の会社もガラガラ新幹線の御蔭で既に青色吐息である。経営基盤が弱い会社には新幹線の償却費が重く圧し掛かる。そう考えると案外元気なのは四国かもしれないが、いずれにしても三島会社はつくづく可哀想である。運賃が足りない分は、本州の真ん中で政治や工事に大博打を打っている名古屋の会社に少し取り立てに行くべきであると思った。大体、今回の旅行で結局一番儲かったのは東海道新幹線と言って間違いはない。
 一日晴れ。午前中は寝たり起きたりと鬱状態。午後出社。気晴らしにチラシを手に歩く。少し歩かない内に、また続続と瀟洒な御家が建っている。併し此の辺りの地価も決して安くはない。土地と建物を合わせたら、小さいおうちでもべら棒な金額である。他人の家計などを心配しても仕様がないが、夫婦共働きでどうにか払える水準であろう。金利は過去最低水準だが、賃金カーブなど一向に描かない世の中である。住居費でいっぱいいっぱいとならなければよいが。つくづく都市部の地価が高すぎる。併しローンを組めるだけ大したものである。大貧学院勤務ではサブプライムローンでも審査を通らないだろう。
 先週の激昂のせいか金参万円受け取る。併し慢性的な徒労感は取れず。つくづく草臥れたと思った。まるでお話しが通らないというのも、年年歳歳子どもの頭が劣化したことに加え、此方の加齢に因るものかもしれない。下らないことを教えて回るというのも概ね四十歳辺りが限界年齢であると思った。退社後は珍しく晴雷亭へ。偶偶須々木さんと出合う。久久に真面な成人男性と会話してから帰った。


4/19・火
 熊本の余震は続く。震源域はやや南西に移動。もはや断層帯群発地震の様相である。こうなるとあの原子力発電所も早く止めておいた方がいい。なお新幹線の復旧には相当掛かるよう。在来線も熊本八代間は不通のまま。而も八代以南は第三セクターに引き取らせたから、増発は難しいだろう。こうなると日豊線経由の「にちりん」の復活運転だと思った。
 また相変わらず物が届かないとのこと。大体、必要数を正確に予測若しくは把握し、それらの品物を方方から調達し、そして現地まで適切に配送するなどと言うのは、平時であっても中中難しい。まして道路損壊の非常時に、流通の専門家でもない公務員やボランティアがいくら頑張ってみたところで、そもそもが無理な話しである。だからフローよりストックが大事なのではあるが、都市型生活はどうしても前者依存になる。好きな時に好きな物が好きなだけ買えるというのは、幾ら物が溢れ返っている時代とはいえ、ちょっとした奇跡のような話である。流通システム自体が、極めて複雑かつ脆弱なシステムの上に辛うじて成り立っているようなものだからである。
 朝から穏やかに晴れた。漸く花粉も収まったようで、マスク無しで運行可能となる。老家人の誕生日。と言っても今更然したることは無し。肉屋の焼き鳥に家人の筍御飯。


4/18・月
 朝方は宿酔気味。起きて見たところで大地震のニュースばかり。午前午後と鬱状態。夕方近く厭厭出勤。人語を解せぬ相手に余り真面目に関わると腹が立つばかりだから、万事適当に授業す。小学生のババ抜きにも付き合う。退社後は空腹のまま長駆して焼き鳥Bに参る。馴染みの従業員に構って貰ってから帰った。
 新幹線は依然不通。在来線は熊本までは動き始めたよう。併し物流はまだまだで此の過剰生産、過剰サービスの時代にあっても、避難所までは行き届かず。拙宅でも一週間程度の食料は買い置きしてあるが、家が倒壊して仕舞っては、それも取り出せない。それに満員電車のような避難所での生活など、一瞬の想像をするだけで十二分に恐ろしい。


4/17・日
 幸い被災地の雨は軽微で済んだとのこと。今回の地震では少なくとも数千人が家を失った模様。想像を絶する事態である。大体、家というものは一朝一夕にはできない。家屋と言う入れ物と、各種公共及び民間サービスと、屋内外の家具家電を始め、幾百幾千幾万と言う種種雑多な事物が万事調和してこそ、初めて家というものが出来上がる。例えば何時もの爪切り一本、あるいはお気に入りのゴミの袋一枚なくして家での生活は成り立たない。無論吾人も探し物や緊急調達に走ることも多多あるが、余りに片付かない家というものは不調和の極みと言えるし、また逆に物を最小限にしたビジネスホテルのような詰まらない部屋というのも、雑多な物どもを調和させながら一つの極致に至るのだという意志と自信に欠ける臆病な家である。
 無数の事物を一つ一つ調達調節して並べ、それらをほぼ完璧に把握運用し得た時、どんなあばら家であっても自宅というものは、どんな高級旅館や超一流ホテルより快適な空間となる。だから家づくりには恐ろしく長い時間と手間が掛かる。話しは少し逸れて仕舞ったが、家でぐだぐだするのが好きだから、家を失うということは何よりも恐ろしい。先ずは入れ物の再建である。此れは行政でも出来る仕事である。明け方から強風が吹き荒れる。御昼前後には雨が加わり、一瞬春の嵐となる。夕方までには綺麗に晴れた。一日無為。


4/16・土
 未明に本震より更に強力な余震が起こる。マグニチュードは実に7.3。つまり一昨日のが前震で、今日のものが本震であったと言う訳である。例のごとくの紋切り調で余震に気を付けろとは言われたが、いよいよ本震が来るとは誰も言わなかった。物事の前後も判断できないのだから、人知というものは正に前後不覚である。「田所博士」みたいな異端の研究者というものはいないのかな。
阿蘇では大規模な山体崩落。大橋も国道も豊肥線の線路も流されている。眼にも楽しい鮮やかな田園風景も茶色く塗られた。建物の倒壊も多数。死者は二ケタに達す。震源域は次第に北東の大分側に移動。これで外国人観光客も来なくなる。暫らくは球磨焼酎を飲まなくてはならないな。
 御昼になると拙宅の貸駐車場からワゴン車が脱輪す。車止めを乗り越えている。説明が難しいが、元元が段段畑のような駐車場だから、あわや大惨事になるところであった。自動車連盟から二人来て、ジャッキで持ち上げ、レッカー車で引っ張り上げる。凡そ二時間掛かり。内外ともに災難続きである。
また地震のニュースを聞きながらうつらうつらとしていると、「大広孝(おおひろたかし)」という人名が突如として浮かんでくる。所謂、夢告である。以後此れをペンネームにしようと思った。


4/15・金
 夜が明けると被害状況がより明らかになる。死者は一桁だが、局地的な家屋の損害が非常に大きい。また仮設住宅作りである。九州新幹線も回送列車が本線上で脱線す。つくづく日本全国活断層だらけである。それにしても先月わざわざ通ったところがこういうことなると、何だか不思議な気持ちになる。
併し東京でそれが起きたら、正しく推して知るべしの惨状である。尤も極めて大量の人人が離脱疎開移住帰郷するだろうから、地方活性化には寄与するだろうが。
 午後出社。いつまでたっても兄弟喧嘩のような稚拙な言い争いをやめない小学生に激昂す。下らないことで腹が立って立って仕様がない。一刻も早くこんな下らない仕事から足を洗いたいと思った。立った腹を直ちに横にしたかったが、立ち飲みBも中華立ち飲みも佐渡屋も満員。やむを得ず一軒目からバーIに乗り込む。麦酒を二本、叉焼に麻婆豆腐を平らげてから帰った。金三千円。腹が立つと出費が増える。


4/14・木
 都知事選挙に出て来た頭の可笑しい元幕僚長が選挙違反で逮捕される。運動員に現金を配っていたとのこと。元高級公務員が公職選挙法のイロハも知らないとは驚きである。思想信条も出鱈目なら、組織運営も出鱈目である。ある意味、個人的には整合性がついているのだと思った。併しこんな人物がトップにまで出世して、よく航空自衛隊は事故を起こさなかったものだと、今更ながらほっとする。現業組織としての自衛隊は優秀で健全なのだろう。
 御昼まで雨が残る。午前中は鬱状態。午後更に鬱なる千寿校に出校。実に四週ぶりだが、教室内の乱雑さは其のまま。片づけようにもゴミにも資源回収にも出せないからどうにも仕様がない。千寿校でも新規生徒は少なく、高校に通う生徒と適当に無駄話をして退社。破魔寿司に寄って帰る。すると熊本で最大震度七の直下型地震。其の後も余震が続く。九州の地震とは関係ないだろうが都内でも微震が二度もあった。


4/13・水
 新宿ゴールデン街で火災。飲んだことは無い街だったが、此れでまた再開発話しということになるだろう。そして再開発というと必ず塔のようなマンション造りということになる。精精四五階建てにして、一二階を店舗、それ以上を住居にして、元あった飲み屋街も入れるというような再開発は聞いたことが無い。上に伸ばさなければ開発費用が捻出できないという事情もあるだろうが、何とかならないものか。大体建築や都市計画の専門家はどう考えているのだろう。タワマンばかり拵えては詰まらないだろうに。
 ラーメン屋、定食屋、蕎麦屋、焼き鳥屋、立ち飲み屋、小料理屋、大衆酒場、洋食屋、イタリアンの店、古本屋を一通り揃える。タコ焼きや鯛焼きの店や弁当屋、ケーキ屋に甘味処なんて堅気の商売もあっていい。トイレは最新型の男女別別。低層の建物と建物の間には中庭も作って木を植えて、晴れた日はテラス席でのんびりと麦酒を飲む。買い物客や酔っ払いの横を猫が好き勝手に動き回る。少し上からは住民の御婆さんが顔を出す。こんな再開発はないかな。青写真なら吾人の頭の中にあるぞ。誰か聞きに来い。
 朝から曇天。午後出社。生徒も先生も居ないので、水曜は無責任社長と二人勤務と云う事になる。まるで難破船に閉じ込められたような閉塞感である。実に全く下らない。大急ぎで退社し、中華立ち飲みに参るも、鶴木さんは見知らぬお客と詰まらない話に興じている。とうとう本日は真面な大人と一言も話す機会がなかった。吾人の生活も監禁生活と何ら変わらないと思った。雨に降られながら早目に帰宅。家で汁かけ御飯を食べる。千円しか使わず。
 ところで中学生に数学を教えていると、生徒が何やらスマートフォンでごそごそやっている。大方ゲームでもしているのだろうと思って見てみると、計算問題をカメラで撮って解かせている。どうもそういうアプリがあるようである。試しに色色と解かせてみたら、連立方程式二次方程式因数分解なども基本的な問題なら解いて来る。どういう仕組みでそうなるのかは知らないが、ついにこういう物が出て来たかと感心す。何年かしたら、塾の先生も自動化されるなと思った。そうすれば晴れて此の仕事も辞められるとも思った。


4/12・火
 サミットサミットと言うと、都内西部の住民は、緑印のスーパーマーケットを思い浮かべるが、最近はG7と言うらしい。今年は日本が開催国だということで、広島で事前会議となる外相会談が行われた。各国外相は揃って原爆資料館などを訪問したそうである。戦争の悲惨さ、就中核攻撃の非人道性を世界にアピールするには良い機会だとは思ったが、何しろ開催国の総理大臣がAではね…。そういえば内閣法制局長官は最近何と言ってたっけ。内閣による答弁書も。
まあ外務大臣のK氏は宏池会出身だから、それなりに頑張っているようだが、何しろ首相がAだからな。確かドイツの大臣は飛行機の故障で会議に遅刻したそうである。此れはワザとだな。そういえば以前はG8と言った筈だが、ロシアは離脱したままである。こうなると冷戦時代に戻ったよう。つくづく人類には知恵がないと思った。
 一日冷たく晴れた。少し木を切っていたが、腰痛は治らず。こんなに腰が痛いというのも、初めての経験である。他は無為。直接的には一円も使わず。
 

4/11・月
 「世界で一番貧しい元大統領」が来日して色色と有り難いお話をして頂いたよう。おっしゃっていることは至極真面で傾聴すべきである。併し「私は質素を好む」というお話を、ウォール街の強欲な資本家たちの前でなされるなら兎も角、需要が足りなくて足りなくて困り果てている国でされると、何だか却って困ると思った。
 『清貧の思想』というベストセラーがある。あの本があれだけ支持されたのは、バブルによる過剰消費の時代にあって、清貧と言う謂わばアンチテーゼを唱えたからである。時は巡り、インフレーションからデフレーションに苦しむ現代である。今日、其の清貧を説き、万が一にも真に受けた人人が節約を始めるとどうなるか。益益内需が萎んで仕舞うだろう。すると労賃は更に下がり、中間層は益益分解し、清貧から正真正銘の赤貧に転落して仕舞う人が続出する。そしてとうとう目刺しも食べられなくなったら大変である。
 御金がない人なら仕方がないが、御金がある人は適切な消費を適切な価格で行って欲しいと切に思う次第である。別に無駄遣いをしろと言うのではない。真っ当に働いている人に、真っ当な賃金を出すためには、真っ当な消費支出が必要なのである。
朝は曇り。午後は晴れたが冬型に戻る。TBSラジオ「ゆうゆうワイド」は先週で終了し、今日から新番組。少し若返りを果たすよう。ラジオは習慣性が高いから、最初は大変だと思う。此処数年「スタンバイ」の後はニッポン放送にダイヤルを合わせてきたが、この先どうしようかな。
 午睡の際、腰を寝違える。此れも身体の経年劣化である。腰を摩りながら午後出社。退社後は立ち飲みBに行くも、構ってくれる店員もおらず。早早に切り上げて、久久に佐渡屋に参る。実に半年ぶりだが案外歓待してくれた。こんなに間隔があいたのは、駅前再開発に伴い飲み屋の地政学的リスクが激変したことによるものであると弁解す。


4/10・日
 銀行に預けると御金が腐って無くなるという訳で、家庭用の金庫が売れているという。結局大量の紙幣が、全国津津浦浦大小無数のタンスに退蔵されることとなる。併し此れでは何にもならない。いっそ紙幣を定期的に切り替えて、古いお札はもう間もなく紙切れになりますとでもやれば、少しは消費も伸びるだろうか。それとも貴金属に代わるだけかな。一日晴れて温かい。昼は環七のつけ麺。少し木を切る以外は無為。


4/9・土
 またスポーツ選手の賭博行為が問題となる。今回は錦糸町バカラ賭博だそうである。まあ勝負師とたるもの、賭けには強くなければならない。勝負事も賭け事も脳味噌の同じような所を使う筈である。メダル獲得も有望な選手だったそうだが、オリンピックは出場取り止め。可哀想と言えば可哀想である。こうなると国内に一二か所でいいからカジノを作って発散させようなんて声も出てきそう。併し間口を広げれば広がるほど依存症が増えるだけだな。
 朝から一族郎党を代表して小平霊園に向かう。途中高田馬場駅構内で漸く散髪。例によって一対の花を四つに分けてお参りす。家人、老家人、万代伯母、秋子叔母、温子叔母の分と吾人、計六回手を合わせた。それにしても吾人が死んだ後は、この墓はどうなるのだろうか。何だか急に寂しくなり、墓参の模様を月波君にラインす。すると「後見人に御金を渡して墓守を依頼すればいいのです」とのお応え。そういう返信を期待しているのではないのだが。
 駅前で蕎麦を食べ、そんな冷酷な月波君と巣鴨で待ち合わせ。立ち飲みBの新店と異動した宮川店長を激励訪問。幹部のD君も応援に来ていた。一応駅前商店街で買い入れた大福餅などを差し入れる。大したものではないが、要は心意気である。新店はそんなに大箱でないから、直ぐに慣れるだろうと思った。
それにしても巣鴨という街も城北地区特有の造りをしているから、立ち飲み屋の両側は所謂、性風俗店。而も向かいは駄菓子屋である。近くには有名なお地蔵さんもいらっしゃる。人生のあらゆる段階の欲求を満たすことのできる街であると思った。
 二時間弱立って飲んだ後は、古い串焼き屋に。Bでは出された物を全部食べたので、もう幾らも飲めず。腹ごなしに大塚まで一駅歩き、「世界飯店」という多国籍風中華料理屋に入る。看板の「世界ラーメン」はライトな二郎系といったところで案外旨かった。食べ過ぎのまま八時過ぎには帰宅す。桜は概ね散って仕舞ったが花粉は健在。無残にも鼻をやられた。また月波君から例によってTBSラジオの広報誌を貰う。評論家八人中、なんと六人もが中日を最下位と予想している。全くとんでもない。名古屋の人に見せたら八人中七人が激昂するだろう。今年の中日は若手が育っている。案外優勝するかもしれないと期待し始めている。


4/8・金
 パナマの法律事務所から大量の文書が抜き出され、租税回避地の実態が明らかになる。早速アイスランドの首相は辞任に追い込まれた。それにしても庶民の財布からも10パーセントも巻き上げるのだから、富裕層からもっともっと取り立てるべきだというのは極めて真っ当な主張である。まして政治家が関わっていたとなれば、怒り心頭というやつである。今のところ国内からは某警備会社の創業者一族の名が上がる程度だが、此の先どれほど拡大するのか楽しみである。
 概ね晴れて暖かい。午後出社。少しチラシを配って歩く。退社後は大将らと珍しく金曜会。開店休業に近いステーキチェーン店の後は、中華立ち飲みへ。一階は満員電車のようになっているので、二階の個室に陣取った。グリーン車のようだが、次次におじさんたちが集まり、程なく二階も満席に。止む得ず給仕を手伝う。まるで飲んだ気がしないので大将と一緒にバーIに雪崩れ込む。併し此処で想定通りX女史が登場。逢瀬の邪魔をしてはいけないと隣席を譲って退散す。


4/7・木
 近所の空き大学が建て替わり、新しい学部が出来た。何でも日本で初めての学部を作ったというらしいが、名前は少少頂けない。大体大学が危機を煽り立てることが宜しくない。危機に際し冷静な対応を説くというものが大人の知性、つまり大学というものの役割であろう。せめて「安全管理学部」ぐらいにすべきであると思った。併しキャンパスには一年生しかいない。まだまだ寂しい限りである。食堂も一般開放されるらしいから、是非食べに行きたいと思った。久久に学生気分に戻れるかもしれない。但し危険人物として排除されないように、御行儀よく食べに行かなくてはならない。
 誰も何の期待もしていないがTPP関連法案が審議入り。大方儲かるのはグローバル大企業の其のまた上層部だけだから、一般の関心薄し。当のアメリカでも中間層以下は反対が多いという。国単位ではなかなか物事の本質は見えないと思った。じっと審議を聞いていると、何時の間にか年金の話しになる。やはり株価の低落に因り、つぎ込んだ年金の御金、凡そ数兆円が蒸発して仕舞ったそうである。
 朝から大雨。働きたくないから千寿校は来週の始業にして貰った。従って木曜不出社。ひねもす日記の整理。雨は午後には止む。すると南風が吹き付ける。


4/6・水
 ヘイトスピーチを規制するかどうか国会でも問題となっている。併しああいう行動をとる人が本当に出て来るとはね。大体普通に生活していれば、外国籍の友人とまでは行かないが、「顔なじみ」くらいは出来るだろう。何某さんの奥さんの顔とか、何とか屋の従業員であるとか、そういう人人の顔を少しでも思い浮かべれば、あんまり酷い事は言えない筈なのだが。
 朝から久久に晴れた。掛かりつけの老師に健康診断の結果を聞きに行く。中性脂肪が250とやや戻って仕舞ったが、悪玉コレステロール値は129に下がる。此れは薬の成果だろう。粗末な物しか食べてないのにコレステロールが高いのは遺伝的な要因だと言う。持って生まれたものだから吾人の不節制という訳ではない。引き続き健康保険を利用させて頂くことにしようと思う。また血糖値は84で問題なし。尿酸7.9、ガンマGTPは77とやや高めである。此方は大量飲酒を控えなければならない。健康体を維持して社会保障費を増大させないのも御国の為である。
 午後出社。金伍萬円受け取る。今日から新年度の通常授業。謂わば正月に当たる筈だか、然したる感慨も無し。大体やっていることが毎年同じである。いや毎年毎年、前年の劣化コピーである。何の新鮮味もない。ぼんやりとして来て、つい今年が何年だか分からなくなる。ほぼ同じことの繰り返しだから、学習塾の先生に限らず、教職というものに就く者の認知症発症率は高い筈だと思った。退社後は珍しく無責任社長のお相手をす。
帰り掛けに立ち飲みSの常連だったМさんを見掛けた。余程生活が困窮しているらしく商店街から出されたものを漁っていた。そういえばNさんも無責任社長に金策の相談に度度来ては頭を下げている。両人とも数年前まではきちんと立って飲んでいたのだが。それに、ちゃんとした妻子もいたと聞いていたのだが。尤も飲み屋での話しだからどこまでが本当かは分からない。何れにしても老人の下流化が著しいと思った。
それにしても当人たちもまさかこういう老後になるとは思わなかった筈である。併し過去に遡って貯蓄心や年金保険料の納付義務を説く訳にも行かず。最終的にこういう人人の面倒を見るのも国庫の仕事である。とてもじゃないが御金が足りる筈がない。そうなるともっと早い段階から、もっともっと税金を取り立てに行くべきであるとも思った。差し当たり、酒税とたばこ税、そして消費税であろう。いっそパチンコ税も作るなら早く作った方がいい。


4/5・火
 火曜不出社。久久に万代伯母の介護施設に参る。三か月ぶりの訪問だが、概して元気そうであった。序に昼食を食べさせたが、時折機嫌が悪くなり大声を発す。何だか何かに怒っているようである。流動食が良くないのかな。元元食べることに関心は無い質だったが、何もかもがドロッとした御粥のような食事は、見た目にも旨くない。伯母も入った当初はきちんと箸を使って食べていた筈だが、咀嚼出来なくなったという理由でとうとうこういうことになっている。施設は安全第一だから、ついつい柔らかい物へ流れ易いのだろう。
それにしても入居から丸六年。此の間、要介護度は二から四に昇進す。自己負担分だけで一日壱萬円以上。其れに介護保険後期高齢者医療保険からも大量の御金を費消している。年を取るのも大変である。大まかにいうと、地方から都内の理科系の大学に通わせるぐらいの感覚である。人生も前半と後半には誠に御金が掛かる。
 何だか頭がくらくらして来たので、農大脇の桜を見ながら少し歩き、「くら寿司」に入る。春休み中と云う事もあってか、店内は女性と子どもで溢れ返っている。丸で小児科病棟であると思った。まあ飲んで食べて騒ぎ回るくらい元気がある方がいいか。それにしても最近の回転寿司はカレーもラーメンも鰻丼も出す。まるで昔の大衆食堂だと思った。但し注文は全てタッチ操作だが。更に馬事公苑を散策。中央図書館で本を眺めてからバスに乗って帰った。一日曇り。従って桜も映えず。


4/4・月
 朝方は結局霧雨。九時過ぎ起床。昨夜は九時に就寝。十二時間ずっと寝ていたわけではないが過眠である。止んだ頃に自転車に乗って出社。八両編成で授業を行う。過眠も不眠同様に頭がぼんやりす。それにしても吾人の人生も拙宅と大貧学院と立ち飲み屋を行ったり来たりするのみである。行動半径は数キロにはなるが、前日のタマ子さんと大差ないと思った。
 退社後は立ち飲みBへ。本日で宮川店長が退任。別店に異動となる。大きな店で構ってくれる従業員も居ないとなると少し詰まらなくなると思った。序に天裕寺の焼き鳥Bも訪ねて帰った。夜も霧雨。また濡れて帰る。


4/3・日
 未明から結局雨。止み間を狙って出掛けたが、1100円床屋は超満員で座る所すらない。何度も言うが理髪店も「下方平準化」が酷いと思った。止むを得ず量販スーパーで買い物をして帰る。その際、変なおじさんに自転車の乗り方について暴言を吐かれる。頭の可笑しい大人には事欠かず。どうにも憂鬱な日曜の朝である。花でも見ながら昼酒でもしたかった。午後には止んだが、精精隣町にラーメンを食べに行くのみ。650円。内需不拡大である。二月の新店はもう閉店していた。
 『もらとりあむタマ子』見了。だらだらしながらニュースを見ては「駄目だな日本は」と言う辺りは、吾人の日常と大差ない。併し此れと言ったストーリーがある訳では無し。こういう映画はディテールを楽しむ物なのだろうと思った。お父さんが拵えた家庭料理が美味しそう。舞台は甲府の古いスポーツ用品店。近くには中央線の駅もあるが、タマ子は自転車しか乗らないから、物語は自宅と其の半径五百メートルで完結す。折角東京の大学を出ても行動範囲は謂わば中学生並みに後退した感じである。画面を覆う閉塞感は、離陸したくても離陸できない、成りたいような大人には殆ど成れないという時代状況を案外巧く反映していると言えよう。何しろ主役が前田敦子だから、割と明るい閉塞感ではあるが。


4/2・土
 空前の利益をあげた筈だった大企業の景況感も悪化。併し此の利益というやつも大半は出鱈目な減税と株高と為替操作によるもので、本家本業の真っ当な稼ぎによるものではないと聞いたことがある。此れでは滴り落ちるどころか、雨自体が幻であったというべきか。
併し日本経済もデフレーションに逆戻りである。また一段と沈没するだろう。あべこべに水は下から迫ってくる。もう何層まで浸水したのかな。吾人の人生も既に床下浸水である。大企業の内部留保も期待できないなら、あとの頼みは主に高齢者が貯め込んだ数百兆円か、外国人観光客か。
 一日曇り。気温低し。プロ野球が開幕して一週間経ったが今年の中日も頗る弱い。何しろ投手がいない。従って本年も野球に時間を取られなくて済みそうである。余った時間で草取り。此方も愈愈開幕である。暖冬だったから二週間は早いと思った。


4/1・金
 確かに桜はパッと咲いている。要は散らなければいいのである。御昼に出社。八両編成だが、パラパラと生徒が乗っており、案外疲れる。退社後は、何処の店に行くかと頻りに思案していると、串揚げ屋にいた柳さん夫妻に見付けて貰う。早速三人で共同飲酒。其の後中華立ち飲みへ。久久に楽しく痛飲出来たと思った。夜は雨。今週は二度も降られた。夜桜隊は壊滅だろう。
 東大元総長が書いた小説がポルノ小説だと話題になっている。ただ優れたポルノグラフィは反ファシズム小説になるそうである。「性の悦びはあくまで相手次第、そのとき次第。そこからみんな一緒という思想は生まれない」(片山杜秀)からである。成程、そういうこともあるものかと思った。性愛に惑溺している大将とX女史にも是非読ませなければならないと真っ先に思った。