成長するもの・しないもの

 ケーブルテレビの営業員にすすめられて、チューナーを最新型に交換した。チューナー+録画用ハードディスク・ブルーレイ搭載という代物で、月々の支払いは1800円ほど高くなったが、この機械がなかなかすごい。本体に数百時間は録れるうえに二番組同時録画やブルーレイに落とすのも超高速でやってしまう。今までVHS+Gコードを使っていた身としては、まさに隔世の感がある。
 ビデオデッキというものを最初に買った時、確か10万円はしたと思う。80年代半ばのことである。あれから四半世紀、ビデオはここまで進化した。当時からみればこの新型録画機は、まさに「未来」社会の到来、あるいは経済「成長」を実感させるものであるに違いない。
性能が100倍になっても実勢価格が半分(ブルーレイレコーダーは量販店では5万前後で売られている)ではメーカーの採算が取れているか心配だが、技術の革新とはそういうものであろう。それにいつまでもVHSを使われては、メーカーも商売あがったりである。新型機の導入は内需拡大・経済成長に寄与するにちがいない。こうした電化製品、なかでも情報通信関連の機材の進展は凄まじいものがある。
だが、それぐらいかな…、「成長」を実感できるのは…。
2011年になっても、人々は相変わらず自転車に乗っているし、コンビニの弁当は相変わらずたいしてうまくない。通勤電車の混雑はひどいし、テレビ番組は代わり映えがしない。これらの分野の成長は限定的であると言えるだろう。
 国力の衰退を招かないためには、先進国であっても経済成長が不可欠であると経済学者たちは言う。だが、もはや成長しつくした感がある国で、この先一体どこをどう成長させればいいのか正直なところ、私には分からない。
20年ぐらい前は400円だったもので、最近は250円になってしまったものがある。牛丼である。この20年の間で、牛丼は成長したと言えるのであろうか? 
過当競争と円高および関税引き下げによる原材料費の値下がりによる価格の下落を経済成長とは言えないだろう。同じものを作りつづけていては、結局は価格競争に持ち込まれてしまう。
では何かを開発しなくてはならない。もっと高付加価値の商品を。だが、手早く食事をするのに牛丼以上のものがないのと同様、例えば近距離を移動するうえで自転車より優れたものがあるとは思えない。
それに途上国の追い上げで、家電も自動車もパソコンも、いくら頑張って新型に切り替えたところで、日本国内で作っていては採算が合わないものばかりになってしまった。
この国ではもう売れるものがなくなりつつある。しかも急速に…。そして恐らく、何かものを大量に作って輸出で儲けるという発想自体が限界なのであろう。
今後は、官民一体となって観光業や日本でしか作れない工芸品・農産品の輸出を振興させるという。それで多少は儲かるだろうが、それを成長と呼べるかは自信がない。経済成長がなければ、借金が背中から追いついてくる。国と地方の借金が国内の預貯金の総額に追いつくまであと2年しかかからないそうである。