ラーメン一杯290円!?

 いわゆるハケン切りを受け、社会貢献をしようとばかりに、慢性的に人手が不足していた各種外食産業も正社員の募集をしているらしいが、さすがに集まりは悪いようである。
 転勤あり、客商売、立ち仕事、深夜勤務あり・・・、今日、外食産業ほど厳しい競争にさらされている業界はないだろう。たとえ、正社員であっても、なり手はないというわけである。
 そもそも、ラーメンが一杯290円(今回求人のあった某チェーン店)で食べられるというのは、消費者にとってはありがたい話だが、労働者にとっては、これは悪夢である。まったく無規制の外食サービス業が、異様に突出して発達した社会の悲劇とも言うべき事態である。
様々な社会的コストを払っていたら、ラーメンやハンバーガーや牛丼が、こんなに安価に食べられるはずはないのだ。
 社会的コスト云々の話をすると、かつての公害企業が思い出される。公害企業は、それらを外部に転嫁しており、内部経済は、外部不経済に至ったわけなのだが、外食産業にとっては、それらの外部は、一般的にかなり不可視化されている。つまり、店内はきれいだし、まさかラーメンを食うことが新しい公害の元とはなかなか思われないだろう。
 だが、店に入ってよく見ればわかることで、正社員とおぼしき店員は、いつも血の気が悪く、疲れ切ったように厨房に立っている。彼は大丈夫か? 残業代は出ているのか? 体を壊す前に転職しろよ! と、思わずにはいられない。(わたくし貧乏卿なども、毎回、スイマセンけど食べさせてくださいと心に念じて入店する次第である。)
こころある消費者ならば、店員殿の苦しみと疲労が充満しているような店で、楽しく食事というわけにはいかないであろう。
そのようなチェーン店で楽しく飲食ができるのは、その実態を知らない若者(ただし中高生以下)か、そもそもそういう実態を知ろうともしないビジターの高額所得者か、まともな観察能力のない無神経者のいずれかということになろう。
同類相憐れむではないが、所得が低くて、そのような低価格チェーンを使わざる得ない階層であればあるほど、その苦しみが手に取るようにわかるのであり、そのような業界に転職など、まっぴら御免というわけなのである。