80年目の新住人

 築80年になる隣りの家に新たなる住人が来た。もっとも住人といっても、人間ではなく、母一匹子三匹になる猫の家族で、先月からなんとなく住み着き始めている。
もともとは、齢90になる伯母の家であった。伯母は施設に入り、空き家となっていた。先日まで、猫のフン害にそれこそ憤慨していた者であるが、愛くるしいその姿にすっかりやられてしまったのである。
しかし昔の日本家屋とは、実に様々なスペースがあるものだ。軒下、軒先、縁の下、井戸端、物置き…と、室内以外の多種多様なスペースに潜り込んで猫一家は暮らしている。築80年の日本家屋も最後の住人を迎えることとなって満足しているかもしれない。
正直なところ、古い日本家屋など、「現代人」には住むに値しないだろうが(隙間だらけでトイレが寒い、風呂も寒い、段差が危ない、鴨居が低い、なにもかも不便!!)、様々な客人を迎えるには、いいスペースを持っていた。縁側、軒下、玄関先、勝手口…。
快適に住むには新建材で出来た近代住宅や集合住宅がよいに決まってはいるが、現代住宅がそうしたスペースを省いてしまったのは、残念なことだと思う。
 梅雨のこの時期、猫一家は物置き部屋のいくつかの棚を寝台にして就寝している。人も猫も寄りつかない、家や街並みばかりにしてしまうのも、なんとか避けたいものである。