逆回転ずし

 実を言うと回転ずしは嫌いではない。どうせ行くならベルトコンベアの向こうで職人がわざわざ握っているような所より、どこか見えないところで機械がこさえたシャリに黙々とネタをひっ付けているような低価格チェーン店の方がいい。
 特別な注文は手元の画面にタッチする。店員はいるが一切言葉を交わす必要がない。物象化ここに極まれりである。内部に管理者はいるだろうが職人はいない。それどころか包丁一本ないだろう。
 こういう店には大抵一人で来るから何も話す必要がない。するといろいろと想像が働きだす。皆が皆ラインにむかい一言もしゃべらずムシャムシャやっている様は、なんだか家畜にでもなったような気分である。客とは言えこうなるとコンピュータで管理されたイーティングマシーンといったところか。
 色取り取りのネタが回るコンベアの上もたいへんである。何べんも回っている皿は、もうじき捨てられるから、助けてくれとでも言いたげだ。彼はそろそろアウトだな、あっちの彼女はあと10分程度か…と回ってきた回数をカウントする。おすし君、人間だって同じだよ。起きて仕事して食って寝るだけの回転人生さとでも言い返そうか。
 食欲が満たされる一方で頭の方は何だか逆に冴えて来て少しも気が休まらない。食事も作業も同じである。コンベアの前の人生、コンベアの上の人生、コンベアだらけの人生。私たちが望む社会とはこういう姿でよかったのだろうか??? 店を出るとようやくホッとする。そういえば、あのお皿はどうなったかな…。