ある転向

 外交交渉は大変だと思う。堅い信念と粘り強い交渉が必要だと思う。理想は高くてよい。戦後続いた日米安保体制を変革することを挙げてもよいし、「駐留なき安保」でもいい。日米安保は戦後の常識ではあったが、未来永劫の常識ではない。常識を変えるのも政治の仕事である。
 それらを掲げた現政権の行動は、初心者運転ゆえの暴走とも言え、多少なりとて大目に見る必要はあった。だがここで、今さら「公約ではない」とか「海兵隊の抑止力を再認識した」と言ってしまえば、最後のよりどころだった理想すら吹き飛んでしまうこととなる。
日米安保という常識を変革することが、常識を無視した行動を呼び、行き詰まるやいなや今度は常識を自ら認め、進んで受け入れることとなってしまった。これは最悪の転向である。こうなると人々の怨嗟の声は交渉相手のアメリカではなく、自国の首相にむかってしまうのも、仕方のないことかもしれない。