成長の次に来るもの

 もはや成長しつくした感があるこの国で、経済成長への期待がかつてないほど高まっている。当然国内市場は頭打ちなので、海外へ販路拡大を目指すことになる。しかも欧米市場は日本同様飽和状態なので、アジアのボリュームゾーンに活路を見出すという。
某衣料チェーンは「民族大移動」をさせると聞いた。社員も店舗も海外展開を急ぐということらしい。思えばこの国も民族大移動を経験した。農村から都市部への人口の大移動である。この大移動が高度経済成長を可能とした。人々は農村を出て都市部の工場に就職した。
だが今回の移動に工場はついていかない。今日のグローバル企業においては指令を出す本社と製造現場との距離はますます無価値になりつつある。海外に進出したとしても、製造現場も海外のどこか(より人件費の安いどこか)になるはずである。開発や企画といった部門での雇用は増えるかもしれないが、製造部門の雇用が増える見込みはない。雇用の拡大は限定的なものとなるであろう。
 日本企業がグローバル化に成功しどこに移動したにせよ、大多数の人々はやはりこの国土にしがみついていくしかないのだと思う。別にそれでも構わないと思うが、この場合気にかかるのが、国の借金の問題である。この国の借金は経済成長がなければ返せそうにないらしい。
 身軽なグローバル企業のホワイトカラー層は成長と高収入を享受するだろうが、それ以外の多くの人々は、増えない給料に重い税金と社会保険料がのしかかる…。まったく異なる階層が、同じ国土の上を交錯することになるかもしれない。そうなったとき、人々はそれに耐えられるであろうか?